観光学部とは?
学部長メッセージ
「不要不急」と観光学
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- 小野 良平 観光学部長
- Ono Ryohei
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- Profile
- 東京大学理学部卒業、東京大学大学院農学系研究科林学専攻修士課程修了。博士(農学)。(株)日建設計、東京大学助手、東京大学大学院准教授を経て、2015年より本学勤務。
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平成は自然災害の多い時代でしたが、令和に入り今度は稀代の”パンデミック”が世界を覆い尽くす事態となりました。このような災害や疫病に加えて戦争(あってはなりませんが)は、いうまでもなく観光を含む社会経済に大きな影響をもたらします。人の移動と交流が抑制されることは観光の根幹に係わり、経済全体の停滞や社会の分断とあいまって人々を底知れぬ不安に陥れることにもなります。
こうした非常時には、「不要不急」の行動を控えることが求められますが、観光がまさにその典型例とみなされることは否定できません。では不要不急の観光のようなことは学問に値しないのでしょうか。そうではありません。かつて歴史家J・ホイジンガが人間の本質を「遊ぶ人(ホモ・ルーデンス)」と捉えたように、不要不急の行いこそが人間を人間たらしめてきた、つまり文化を生み出してきたのです。従って観光の盛衰に関わらず、観光について学ぶことの意義は尽きません。
たとえば疫病と観光との関わりは歴史からも学ぶことができます。平安期に都を脅かした疫病を祓う目的で始まったのが、今では京の風物詩として観光客を集める祇園祭です。こうした直接の関係だけでなく、たとえば百年ほど前のT・マンの小説『ヴェニスに死す』は、観光都市ヴェネツィアを舞台にコレラが蔓延する中での情報の隠匿がもたらす不安を描き、疫病のリスクが観光者や地域社会に引き起こす複雑な関係を、現代にも通じることとして教えてくれます。
現代に戻れば、近年急成長していたインバウンド観光が止まり東京五輪も延期となり、そのダメージへの対処は大きな課題です。しかし一方でこの事態はグローバリズムやメガイベントに傾倒し過ぎた観光や地域振興の裏面をあらわにもし、眼前の経済成長に留まらない、疫病・災害や気候変動のリスクとも向き合う持続的な観光と地域のあり方を私たちに問いかけています。即効性のある実践的な学びも大切ですが、すぐに役立つことはすぐに役に立たなくなることも多いのです。少し引いた広い視野で焦らず時間をかけて考えるところに大学で学ぶ意味と楽しさがあります。立教大学観光学部はそうした場を用意して皆さんをお迎えしています。
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学部長メッセージ
観光は現代社会を映し出す鏡
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- 橋本 俊哉 観光学部長
- Hashimoto Toshiya
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- Profile
- 立教大学社会学部観光学科卒業。立教大学大学院社会学研究科博士前期課程、東京工業大学大学院理工学研究博士課程修了。本学社会学部専任講師などを経て、現在観光学部観光学科教授。博士(工学)。主な著書に『観光回遊論−観光行動の社会工学的研究』(風間書房、1997年)、『観光行動論』(編著、原書房、2013年)。
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私たちは、人やモノ、情報がグローバルに行き交うことが当たり前の社会に暮らしています。人が移動すると経済効果が生まれ地域振興に繋がるだけではなく、旅行者と受け入れ側の人びととの交流は新たな文化を生む源泉となります。旅行者にとっても、生活圏を離れた地を訪れることで知的好奇心が刺激され、自らの生活文化の良さに改めて気づくことも少なくありません。
もはや私たちにとって欠かせない存在と言える観光の形態は、時代によって大きく変化してきました。現代の日本でいえば、“見る観光”から“体験する観光”へとウエイトが移行する中で伝統文化に改めて目が向けられたり、エコツーリズムやヘルスツーリズムが注目されるようになり、都市型の新しい形態の観光が誕生したりしています。観光は、まさに「現代社会を映し出す鏡」なのです。
観光学は、このようなすぐれて現代的な社会現象である観光の影響や効果の解明、新たな観光形態が誕生した背景や現状の分析などをとおして、現代社会やこれからの社会のあり方、さらには人間そのものについての理解を深めようとする学問です。
日本の4年制大学でもっとも長い観光教育の歴史を持つ立教大学は、常に日本の観光教育をリードしてきました。卒業生は、国内のみならず世界各地で活躍しています。こうした伝統とネットワークに支えられた観光学部では、旅行ビジネスの枠組みを超えて、観光をとおして魅力的な社会を創る、さらには人びとの生活を豊かにするために何ができるかを追求し、理論と実践を両輪として、新しい社会を創り上げる挑戦をします。その主役は皆さんです。ぜひ一緒に、伝統ある立教大学観光学部で学び、日本を、そして世界を変えていきましょう。