交流文化学科のフォーカス
観光を通して新しい社会が見える
研究者、現場で語る。
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- 高岡 文章 交流文化学科 教授
- Takaoka Fumiaki
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- Profile
- 慶應義塾大学卒業、慶應義塾大学大学院修了。福岡女学院大学准教授を経て、2016年より本学勤務。
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いま、観光のカタチが大きく変わりつつあります。アニメにゆかりのある場所を訪れるアニメ聖地巡礼。ポケモンGOやドラクエウォークといった位置情報ゲーム。写真映えを求めるインスタ旅。次から次へと新しい旅のスタイルが登場しているのです。そこには、教科書で学んだ国立公園や歴史溢れる町並みがあるとは限りません。地域特有の祭りや伝統的な食文化があるとも限りません。何もない平凡なはずの場所が、突如として観光地になっています。
このように、従来の意味では観光地とみなされてこなかったにもかかわらず近年になって多くの人びとが訪れている場所のことを、私は「非-観光地」と名づけて研究しています。なかでも私が注目しているのが東京渋谷のスクランブル交差点です。ここには毎日たくさんの外国人観光客がやって来ます。動画サイトをみれば、秩序と無秩序が同居するこのダイナミックなスクランブル交差点を彼らが思い思いに楽しんでいる様子が、いくつも投稿されています。日本に住む私たちには日常の光景ですが、観光客の目には「世界でここにしかないエキサイティングな場所」に映ります。
単なる交差点がなぜ日本有数の人気観光地なのか? 人びとは何を求めてやって来るのだろうか? 彼らはここで何をしているのだろう?問いは現場から湧き起こってきます。私は観光社会学というアプローチによって、この謎に迫ろうと研究をしています。現場を歩き、まなざし、耳を傾けて、考えます。
そしていま、COVID-19が観光のカタチをさらに劇的に変えつつあります。観光客が大挙して訪れるオーバーツーリズムの時代から一転し、観光地や観光産業は試練の時を迎えました。他方、デジタル技術を活用したオンラインでのツアー体験もひろがっています。観光を分析する新しい言葉が求められているのです。「いまこそ観光の学びが面白い」と私は考えています。
交流文化学科
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交流文化学科のフォーカス
フランス×ベトナム
現地調査と地図を手がかりに
観光空間と向き合う
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- 松村 公明 交流文化学科 教授
- Matsumura Koumei
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- Profile
- 1961年京都市に生まれる。1993年筑波大学大学院地球科学研究科単位取得満期退学。秋田大学教育文化学部助教授などを経て、現在観光学部交流文化学科教授。専門は観光地理学、都市地理学、フランス地誌。主な著書に『文化ツーリズム学』(共編著、朝倉書店、2016年)。
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上部右の写真はどこで撮影されたか分かりますか? 右の写真には、漢字が目立つ派手な看板と、その下を歩く東洋系の顔立ちをした人やアフリカ系の少年が写っています。左の写真には、モダンなデザインの建物に色鮮やかな店構え、手入れされた街路樹の間にところ狭しと停められたバイクが見えます。
実は右の写真はフランスのパリ、左の写真はベトナムのホーチミンで、現地調査の最中に私が撮影したものです(よく見ると右の写真にはフランス語、左の写真にはベトナム語が写り込んでいます)。パリには、特にベトナム戦争の終結を契機にそれまで現地で暮らしていた華僑が多く移り住み、他方ベトナムは、19世紀からフランスの統治下に置かれ、なかでもホーチミンは「東洋のパリ」と呼ばれるほどフランス化しました。
このように都市は、歴史的な出来事を背景に移動した人びとによって特徴づけられてきましたが、近年では、観光客という存在も都市の性格に影響を与えつつあります。私の関心は、観光の進展によって生活空間に観光が浸透していく過程や、そこから見えてくる都市の特徴を、景観や地図を手がかりに明らかにしていくことにあります。
交流文化学科では、「観光地理学」と「外国地誌(ヨーロッパ)」の講義を担当しています。なかでも「外国地誌」ではパリを中心に取り上げ、現地で撮影した景観写真と精密な都市地図を活用しながら、一般的なイメージとは異なるパリの日常や人びとの暮らしについて学んでいきます。
こうした取り組みの基礎となっているのが、地理学で「巡検」と呼ばれるフィールドワークと地図を組み合わせた地域調査の方法です。写真で示したような何気ない街角の風景も、現地を歩きまわる「虫の眼」と地図が持つ「鳥の眼」の両方を駆使することで、その土地の成り立ちや特色が強く投影された場所として、私たちに迫ってきます。
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