教員の研究紹介④
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- 石橋 正孝 交流文化学科 准教授
- Ishibashi Masataka
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- Profile
- 東京大学教養学部教養学科卒業、パリ第八大学大学院文学研究科意味の理論と実践博士課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、立教大学ほか兼任講師を経て、2013年より本学勤務。 研究者情報
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観光するように読書し、
読書するように観光する専門に研究しているのは19世紀フランスの空想旅行作家ジュール・ヴェルヌです。資料の博捜に基づく本文を緻密な木版画の挿絵と組み合わせることで、読者を擬似的な「旅」に誘う手法、さらには、シリーズ化を通して浮かび上がる「世界」のイメージは、観光の時代にふさわしい特徴を備えています。
加えて最近では、イギリスの作家コナン・ドイルの生み出したキャラクターであるシャーロック・ホームズが、作者の手を離れて「実在化」していくプロセスにおいて、舞台探訪が果たした役割に関心を持っています。観光という視点の導入によって、文学作品の社会的受容を包括的に捉え直すことが最終的な野心です。
ゼミでは、土地そのものを、生成過程にある作品と見做し、その受容やそれを通した「書き換え」をテーマに、2年次は国内、3年次は海外の観光地を対象にして文献講読と現地調査を行った上で、実践を兼ねてガイドブックの作成等に取り組んでいます。おすすめの書籍-
- 心変わり
- ミシェル・ビュトール(清水徹訳)
(岩波文庫、2005年)
最初から最後まで主人公が「あなた」と呼びかけられ、パリからローマに向かう夜行列車内が舞台の小説。旅とは何か、鉄道を利用するとはいかなる経験でありうるのか、じっくり考えたい方はもちろん、「白昼の悪魔」に魅入られた冴えない中年男に不意に「春」が甦るローマの描写が瑞々しく、ヴァーチャル観光をしたい方にもお勧め。
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- 神聖喜劇(全5巻)
- 大西巨人
(光文社文庫、2002年)
対馬が舞台の軍隊小説。抜群の記憶力を持つ主人公が召集されて新兵となり、上官のいびりに執拗に抵抗する話は単純におもしろいですが、コロナ蟄居の現在、観光と戦争の関係を改めて考えさせてくれます。国家が観光を推進すると戦争になる、というパターンをある時期から日本は繰り返しているとの指摘があります。今回、それは戦争とは異なる予想外の形を取りましたが、その打開策とされるGo Toキャンペーンは、ある人いわく、ソフトな召集令状っぽい。遠い過去の話と見えてそうではないスリリングな読書体験をぜひ。
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