研究紹介

<受験情報ページCLIP掲載>対談03「ポストコロナ時代の観光学」

2021.2.22

西川亮(観光学科)

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高岡文章(交流文化学科)

 

対談「ポストコロナ時代の観光学」03

 

 

■ 大学生の旅行意識は変わったか?

 

―― いま観光は大きな転換期を迎えつつある。私たち観光学に携わる者はこうした認識を共有していますが、実際に観光へ出かける人たちはどうなんでしょうか。西川先生のゼミでは、コロナ禍における大学生の旅行意識に関するアンケート調査を実施したそうですね。

 

西川 私のゼミは、文献精読やディスカッションに加えて、観光の現場を学ぶフィールドワークを重視しています。例年、フィールドワークに関心のある学生が集ってくるのですが、新型コロナの影響でフィールドワークの実施が困難になりました。このような状況下で、文献講読に取り組んでいたのですが、学生のモチベーションには多少なりとも影響があったと感じました。
一方で、現実として起きていた、新型コロナが観光に大きく影響を与えている状況を無視することはできませんでした。いまだからこそできることがあるのではないか、このような特殊な時代に学生として観光を学ぶことに新しい価値を見出すことができるのではないか、これまでの価値観が大きく変更を迫られるなかで、新しい観光のかたちを創造する学びを見出していくことができるのではないか、と考えました。そこで、5月のゼミで、「withコロナ、postコロナにおいて観光行動や観光地はどう変わる(べき)か?」、「withコロナ、postコロナの観光地づくり/観光まちづくりにおいて自分たちは何ができるか?」といったテーマで新型コロナと観光の関係についてのディスカッションを行いました。
この議論において、ひとつのグループが、遠くに行くことができないいまは居住地周辺にある魅力に気づき、楽しむ観光が必要ではないかと考え、それを「地元観光」と名づけました。また、緊急事態宣言や外出自粛期間が明けて最初に訪れる観光地はその人の観光に対する価値観を表出させるのではないか、という意見も出ました。そのような仮説や疑問は実際に検証してみることが大切です。そこで、同年代の学生を対象に、「いまどんな旅をしたいか」や「観光を学ぶモチベーションに変化はあるか」など、幅ひろく調査してみようということになりました。
こうして6月に学内外の学生を対象としたアンケート調査を行い、7月にその結果をまとめました。さらに、10月には夏の旅行実態についてのアンケート調査を実施し、12月にその成果を発表しました。単に旅行需要や動向を把握するだけにとどまらず、コロナ禍という危機だからこそ浮き彫りにされる観光の本質は何だろうか、今回の危機はその後の観光にどのようなレガシーを残し得るのか、といった視点を大切にしながら調査を実施しました。

 

高岡 調査結果からはどのような発見がありましたか?

 

西川 6月に実施した調査では、夏休みに旅行に行きたいけれども行ってよいのか迷っている様子が明らかになりました。また、この状況下で観光を学ぶモチベーションが下がってしまっているのではないかと心配していましたが、結果はその逆で、このような時代だからこそ観光を学ぶ意義を見出そうとしていることが分かりました。
10月に実施した調査では、昨年に比べて旅行実施率が下がっていたことや、いわゆるGoToトラベルキャンペーンの利用率がさほど高くないことなどが分かりました。観光学部生とそれ以外の学生で観光に対する意識や行動に違いがあるのではないかと予測していましたが、実際には違いをあまり見出せませんでした。面白かったのは、地方出身者と都市部出身者では意識が違っていたところ。たとえば、「地元観光」の実施経験についてアンケートで確認してみたら、地方出身の学生ほど実施率が高く、楽しんでいる比率も高いという結果が得られました。

 

高岡 それは彼らに移動体験があるからではないかと思います。私は大阪で生まれ育ち、関東に住んだり、福岡に住んだりして、いまは東京に住んで埼玉に通勤しています。これまで移動を繰り返してきたという体験があり、いまでも東京にツーリストとして仮住まいしているようなところがあります。東京も福岡も大阪も、自分にとってはどこか他人の場所です。文芸評論家の小林秀雄がいう「故郷を失った」という感覚ですね。社会学者ピーター・バーガーのいい方を借りれば「故郷喪失者」です。バーガーによれば、近代人はそもそも故郷を喪失しているということになり、私にはそれがとてもしっくりきます。
イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズが「脱埋め込み」といういい方をしています。近代以降の社会では、人びとの行為が特定の空間や時間から解き放たれる事態を指します。場所や空間と自分との本来的な結びつきが、すでに失われています。ですから、自分の生まれた場所も自分の居場所でないように感じてしまう。そういうとネガティヴに聞こえるかもしれませんが、地域を客観的にみることができるともいえます。ツーリストの視点を獲得する、とはまさにこういうことです。
関東で生まれ育った学生には、人生のなかで一度は家を出るといいよと話しています。自分の生まれ育った地域から出るという経験は、観光を学ぶ学生にとって大きな意味を持つと思います。

 

―― 西川先生のゼミが行った調査の詳細は『RT』第1号に掲載されていますので、是非ともそちらもあわせてご覧下さい。さて、先ほど西川先生からGoToトラベルキャンペーンに関する話題が出ました。この対談を行っている2020年11月11日の段階で明確な評価を行うのはもちろん難しいことですが、現時点でおふたりはGoToトラベルをどのように捉えているのでしょうか。

 

西川 宿泊や交通を大幅に割り引くという大胆な政策ですが、それが学生にとってどういう意味をもたらすのかについて考えています。これまで学生は、お金がないから安い宿に泊まり、安い食事しか楽しめなかった。もちろん、そういう旅を経験することは人生にとって貴重です。しかし、GoToトラベルは学生の手が届く世界や選択肢をひろげたと捉えることもできるのではないでしょうか。学生はよいホテルに泊まってみようとなったのか、おいしいものを食べようと変わったのか、普段あまりお金をかけなかった体験にお金を使う余裕が生まれたのか。若者が一流ホテルでサービスを受けることで、その先の観光や観光業に対する意識を変えていくのではないかという期待もあります。

 

高岡 いま個人的に面白いと思っているのは、どれだけ客観的なのかわかりませんが、GoToトラベルでホテルの客層が変わったという話題です。社会学の古典的な問題のひとつが「社会秩序はいかにして成立するのか」というものです。いままで来なかったような層の客が来るようになって、ホテルや旅館の秩序に変化が起きていると聞きます。敷居が高いと考えられていた場所を多くの人びとが体験してみることは、旅行者にとっても観光産業にとってもチャンスだと思います。そのことで、場の秩序がどのように変わるのかといった点に、社会学的な関心を持っています。

 

西川 私はオンライン観光もGoToトラベルの対象でよかったんじゃないかなと思っています。旅行に行けないからこそ、オンライン観光の可能性が出てきたのだから、その需要を高めていくために政策的にはできたのではないかと思います。

 

 

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※ この対談は2020年11月11日に立教大学新座キャンパスにてオンラインで実施されました。

※ この対談は2021年4月に発行される『RT』第1号に掲載予定のものです。発行時には文章表現などが変更になっている場合があります。

 

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