皆さんにとって、旅とはどのようなものでしょうか。何よりも「旅好き」であることは観光を学ぼうとする最初の手がかりですが、旅の経験を俯瞰的な視点で語ることに関心を寄せてほしいと思います。観光を学ぶ学生同士が旅を起点に対話を深めることで、他者の観光の愉しみを知ることはとても価値あることです。
観光の学びは,皆さん一人一人が旅の経験をとおして問題意識を育み、自らの問いを立てる道のりと言えるでしょう。観光を支える仕組み・施設、観光が行われる場所・地域、観光によって影響を受ける社会・文化など、観光学は学際的な領域としてそのアプローチの方法は多様です。問いを意義あるものにするために、講義や演習、スタディツアーを通じて観光学の見方・考え方を身につけながら、日々接する広範な知識・情報を自分のものにしてほしいと思います。観光の最前線は他所との関係の中で絶えず変化を遂げているのです。
2020年に始まった新型コロナ感染症の拡大は、とりわけ観光関連産業と観光地域に深刻な影響を及ぼし、同時に私たちの日常の暮らしが移動と交流によって成り立っていることを鮮明にしました。これまでの日常は非日常へと変わり、県境を越えない地元の観光や「旅するように暮らす」観光もまた、コロナ禍の中で見直され見出された古くて新しい旅の局面でしょう。知っているようで知らなかった空間、たとえば故郷や隣の駅前に目を向けてみて下さい。もしかするとその場所が、卒業研究へとつながる親密なフィールドになるかも知れません。
観光は今や、私たちの暮らしの隅々に行きわたり、観光の学びは現代社会を読み解くための“窓”であり“扉”となっています。観光とは何か?を考え、自らの問いの答えを探りあてるため、効率を優先することなくじっくりと勉学と研究に取り組んでほしいと思います。寄り道や遠回りの中に旅の愉しみがあるように。
立教大学観光学部は、「今、ここから」旅の経験を培い、観光を学ぼうとする皆さんをお待ちしています。
観光学部長 松村公明